冬の回想
涙の理由はいつだって目に見えないものなのに、どうしてこんなに大きくて、私の後ろをついてくるのだろう。薄氷の上を歩くみたいにいつでもヒリヒリと生きてきた。一度、氷が破れて冷たい水の中へ落ちると、どうしてこんな所に来てしまったのだろうと思う。しかし、氷の上を歩こうと思ったのも自分で、取り返そうとしてもどうしようもないのだと思い込むしかないのだ。冬の空気は、唯一触れられる透明だ。その、透明だけれど目に見えない流れにどうしたって逆らうことはできない。冬の川は川縁に雪が積もっていて、誰にも触れられない造形を保っている。それが美しくて、無垢で、いつも橋の上から見惚れる。昼であっても夜であっても。雪が降る街は、わたしの街だと思う位に、また戻ってきて良かったと思える。マフラーの季節といえば、池袋の南口で待ち合わせをしていた頃の記憶がどうにも輝いていて、中退したけれど大学生をやれた人生で良かったと思う。劇場へ向かう手に学生料金のチケットを握りしめて。今ではそんな日々はSFみたいに現実とはかけ離れている。それでも好きなものは好きだし、会いたい人には会っていたい。変わらないこと、変えられないこと、いつだって言葉に触れていたい。
0コメント