壊れかけのiPod nano
受験勉強さえ乗り越えれば安定した老後が手に入ると思っていた。
受験勉強さえ乗り越えれば可愛いおばあちゃんになれると思っていた。
溺れそうなくらいの息継ぎをして、
胃がきりきりするくらい合格率とにらめっこをした日々が、
吐きそうになりながら単語帳片手に電車に揺られた制服の日々が、
大学を中退し、精神障害者になったいまは
なかったことになっている。
こんな生き方しかできない。
こんな人生しかない。
テレビで見る犯罪者が受けた精神鑑定の結果、
自分と同じ病気だとみなされていることが報道された時の気持ちが、
あなたにはわからない。
可愛いおばあちゃんは幻想だ。
いつでもだれか
忘れたくない過去を、
だれにも奪われないことを、
証明するように反芻する。
事実で嘘をつくことができるように。
夢の中で自分が欲しい言葉をだれかに言ってもらうことで、
眠っている、この現実が絶望するより素晴らしいものであることがわかる。
相棒のiPodの画面をひらけば、画面のノイズが増えていた。
少しずつ、だめになっていくiPodと私を重ねている自分をすこし疎ましく思う。
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